大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(う)5801号 判決

原審第四回公判調書によると弁護人の証人矢島しげに対する尋問中、被告人方における家宅捜索の点に及んだ際検察官から家宅捜索と被告人に対する公訴事実との関連性について弁護人に釈明を求め、弁護人は右の尋問は被告人の供述調書の任意性について関係があると述べ、これに対し検察官は論旨摘録の通り弁護人の尋問の制限を請求し、原審裁判官は弁護人のこの類の尋問を制限する旨を告げたことを認めることができるのである。しこうして、被告人に対する本件公訴事実は、被告人が昭和二十六年九月八日東京都台東区広小路一番地松坂屋百貨店内において秋野峯次郞所有の現金九百五十円を窃取したとの犯罪事実であり、原審第一、乃至第四回公判調書に依ると、被告人は原審公判廷において、右公訴事実を否認したので、検察官は証拠として証人尋問を請求し、証人矢島しげの尋問の際は被告人の供述調書の証拠調を請求していなかつたことを認めることができるのであるから、弁護人の右証人矢島しげの尋問中における被告人方の家宅捜索の点の尋問は、被告人に対する公訴事実との関連性を欠くものと認められるのみならず、供述調書の任意性とも関連するものと認められず、又供述調書の任意性に関連するものとしても供述調書の証拠調請求前においては、右の尋問は必要性を欠くものと認められるのであるから、原審裁判官が弁護人の右の尋問を制限したことは、所論のように憲法第三十七条に違反するものではなく、又弁護権を不当に制限したものということはできない。原審が弁護人申請にかゝる被告人実兄矢島克巳の尋問の請求を却下していることは、原審第四回公判調書により認められるのであるが、同証人の尋問の請求は原審第三回公判調書に依り明らかのように、証人矢島しげと同一期日に申請されたもので、弁護人申請の証人矢島しげの尋問の結果に依り、原審裁判官は証人矢島克巳の尋問の必要なきものと認め、その尋問の請求を却下したものと解せられるのであつて、これを目して所論のように一方的に被告人の利益を無視したものとは認められないから、審理不尽であるということはできない。

次に原審第四回公判調書に依ると検察官が刑事訴訟法第三百二十八条に依る証明力を争う証拠として、被告人の自供書、弁解録取書、被告人の司法警察員に対する第一、二回供述調書の取調を請求し、裁判官は同条に依る証拠として取り調べる旨の決定を言渡し、検察官はこれを展示朗読して裁判官に提出したことを認めることができるのであるが、同条にいわゆる証拠とすることができるとは有罪認定の証拠とすることができるとの趣旨ではなく、又同条所定の書面又は供述についてあらかじめその任意性について取り調べなければならないとの旨の別段の定めはないのであるから、原審裁判官が前記被告人の自供書等につきその任意性に触れることなく取り調べたものとしても、所論のような違法はなく、又前記公判調書に依ると原審裁判官が右被告人の自供書等を刑事訴訟法第三百二十八条の証拠として取り調べるについて弁護人の意見を求めた形跡のないこと所論の通りであるが、さりとて原審裁判官が、弁護人にこれについての意見を述べる機会を全然与えなかつたものとも認められないし、况や被告人又は弁護人がこれに対し異議を述べたことは認められないのみならず、仮令これについて被告人又は弁護人の意見を求めなかつたことが、所論のように刑事訴訟法第二百九十七条に違反するものとしても、これを以て直ちに判決に影響があるものとは認められない。更に原判決の援用している証人高橋勘治の証言中に被告人の供述を内容とする部分の存することは所論の通りであるが、その被告人の供述は被告人が窃盜の事実を自白したとの不利益な事実の承認を内容とするものであり、且つその被告人の供述は任意にされたものでないとの疑があるとは認められないから、同証人の証言中被告人の供述を内容とする部分は、刑事訴訟法第三百二十四条第一項第三百二十二条第一項に依り証拠とすることができるものであるといわねばならない。従つて、証人高橋勘治の証言は、所論のように同証人の作成した被告人の供述調書の任意性を調査した上はじめて証拠能力を有するものではないのであるから、原判決が、右の供述調書の任意性を調査することなくして同証人の証言を原判示事実認定の証拠に援用していても所論のような違法はなく、論旨はいずれも理由がない。

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